さよなら、狼さん

雑記とサドンフィクションのブログ 終りの始まりに

朝、起きて、私は馬が水を飲むように水を飲んだ。そして泣いた。青春の終りに

彼女が妊娠していると聞いたのは第三者を介してだった。

 

彼女は同期入社だった。新人歓迎会の帰り、同じ方面のバスに乗った。

「佐藤さん、彼氏とかいるの?」私は聞いた。

「それがいないんですよ。誰かいい人がいたら紹介してくださいよ」

 

『誰かいい人』?

 

別に、私が紹介した訳ではないのだが、彼女は『いい人』を自分で見つけて、彼氏を作った。それどころか、そのうち、結婚までしてしまった。

 

私は当初、予定していた資格を取得し、他の会社に移る気でいた。

しかし、どうしても、最後の一歩が踏み出せなかった。

彼女は同僚。だから、職場を離れたら何の関係もない。職場を離れてしまえばもう、二度と会えないかもしれない。

 

「妊娠したんだって?」

「おっと耳ざといですね。そうなんですよ」

「おめでとうございます」

「ありがとうございます」

 

なんで、直接言ってくれなかった。でもそれが彼女の心遣いかもしれなかった。

 

その週の金曜日、私は飲みなれない、酒を飲んだ。酒を飲むには充分な理由に思えた。

次の日の朝、起きて、私は馬が水を飲むように水を飲んだ。そして台所で大声をあげて泣いた。